2027年(令和9年)1月から、療養・育児・介護と仕事を両立するために就労調整をして給与が減った方について、標準報酬月額を早めに見直せる「特例」が始まります。厚生労働省は、令和8年7月31日付けの通知で、この取扱いを示しました。
この記事では、特例の対象、通常の随時改定との違い、手続きと注意点を、事業主の方向けにまとめます。
特例改定とは
標準報酬月額は、社会保険料の計算の基準となる金額です。給与が大きく下がっても、通常の随時改定では、固定的賃金の変動があった月から3か月を要するため、それまでの間は従前の標準報酬月額のままになります。
特例では、療養・育児・介護と仕事を両立するための就労調整(所定労働時間の短縮や時間外労働の抑制など)で報酬が急減した場合に、固定的賃金の変動の有無にかかわらず、報酬が減った初月の報酬の総額をもとに、その翌月から標準報酬月額を改定できます。
これは新しい法律ではなく、健康保険法第44条第1項・厚生年金保険法第24条第1項の「保険者算定」の仕組みに基づく取扱いです。
対象となる方の要件
健康保険・厚生年金保険の被保険者、および厚生年金保険の70歳以上被用者のうち、次の3つをすべて満たす方が対象です。
- 療養・育児・介護と仕事を両立するための就労調整が、本人と職場の合意のもとで行われていること
- 就労調整によって報酬が急減し、標準報酬月額が従前より2等級以上低下し、その状態が3か月以上続くと見込まれること
- 特例による改定について、本人が書面で同意していること
次の場合は対象外です。
- 報酬が減った初月の翌月に、資格を喪失する人
- 報酬が減った初月を含めて、被保険者期間が3か月未満の人
- 報酬が減った初月の支払基礎日数が17日未満の場合(一定の短時間労働者は11日未満)
- 報酬が減った初月の全部を勤務せず、報酬が一切支払われなかった場合
支払基礎日数については、就労調整のために勤務しなかった日があっても、所定労働日数に変更がなく、雇用が続いていれば、その日も支払基礎日数として数えます。
「報酬が減った初月」とは
事業主が、療養等を理由とした就労調整により2等級以上の低下が3か月以上続く見込みとして届け出た月が、「報酬が減った初月」とされます。届出が遅れると、改定の時期も遅れると考えられるため、該当しそうな場合は早めに手続きを進めましょう。
「療養・育児・介護」とは
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 療養 | 本人が傷病の治療等を受ける場合、または家族の傷病の治療等に伴い、本人が看護などの対応をする場合 |
| 育児 | 小学校就学前の子を養育する場合 |
| 介護 | 要介護認定または要支援認定を受けている家族を介護する場合 |
随時改定などとの違い
| 項目 | 特例改定 | 随時改定 | 産前産後休業・育児休業等終了時改定 |
|---|---|---|---|
| 対象 | 療養・育児・介護と仕事を両立するための就労調整で報酬が減った場合 | 昇給・降給などで固定的賃金が変動した場合 | 産前産後休業・育児休業等の終了後に報酬が変動した場合 |
| 固定的賃金の変動 | 不要 | 必要 | 不要 |
| 等級差 | 2等級以上の低下 | 原則2等級以上 | 1等級以上 |
| 報酬の確認期間 | 報酬が減った初月 | 変動後3か月間 | 休業終了後3か月間 |
| 改定の時期 | 報酬が減った初月の翌月 | 変動月から4か月目 | 休業終了日の翌日が属する月から4か月目 |
| 本人の同意 | 書面での同意が必要 | 要件を満たせば事業主が届出 | 本人からの申出が必要 |
手続きの流れ
事業主が、次の書類を日本年金機構の事務センター(または年金事務所)へ提出します。
- 被保険者報酬月額変更届(特例改定用)
- 申立書兼同意書
健康保険組合に加入している事業所は、同時に健康保険組合にも提出します。特例の手続きは、健康保険と厚生年金保険の両方で同時に行う必要があり、申立書兼同意書にも、その旨を確認する欄が設けられています。
事業主が注意したい5つのポイント
- 本人の書面による同意が必要です。 強制ではありません。
- 給付額に影響します。 標準報酬月額が下がると保険料の負担は軽くなりますが、将来の年金給付が減ること、傷病手当金や出産手当金に影響が出ることについて、十分に説明したうえで、あらかじめ同意を得る必要があります。
- 報酬が増えたときも届出が必要です。 就労調整が終わる、または縮小して報酬が増え、標準報酬月額が特例改定後より2等級以上上がる場合は、固定的賃金の変動の有無にかかわらず、速やかに届け出ます。このときは、報酬の支払いがなかった日は支払基礎日数に数えません。
- 通常の随時改定・定時決定も行われます。 特例改定の後に固定的賃金が変動し、随時改定の要件を満たした場合は、別に月額変更届が必要です。定時決定(算定基礎届)も必要ですが、7〜9月に随時改定や特例改定があった場合は、通常どおり定時決定の対象外です。
- 確認書類を2年間保存します。 出勤簿、賃金台帳、療養の事実が分かる医師の診断書、子の年齢を証明する書類、要介護・要支援を証明する書類など、届出の内容が事実であることを確認できる書類を、届出日から2年間保存します。
事業主の準備チェックリスト
- 療養・育児・介護で就労調整をしている(する予定の)従業員を把握する
- 特例改定の内容と、給付への影響を、本人に説明できるようにする
- 届出書と申立書兼同意書の様式を確認する
- 出勤簿や賃金台帳など、確認書類の保存ルールを決める
まとめ
- 2027年1月1日から、療養・育児・介護と仕事を両立するための就労調整で報酬が急減した場合に、標準報酬月額の特例改定が使えます。
- 要件は、2等級以上の低下が3か月以上続く見込みで、本人の書面同意があることです。
- 保険料は下がる一方、将来の年金や傷病手当金などに影響するため、本人への説明が欠かせません。
当事務所では、社会保険の手続きや労務管理をサポートしています。制度の運用でご不明な点は、お気軽にご相談ください。
※本記事は令和8年10月15日時点の情報です。最新の内容は、厚生労働省・日本年金機構の案内でご確認ください。
参考:厚生労働省「療養、育児又は介護により報酬が急減した者についての健康保険法及び厚生年金保険法の標準報酬月額の保険者算定の特例について」(令和8年7月31日 保保発0731第4号ほか)


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